掃除機長屋*1

えー、しばらくの間、お付き合い願いたいのでございます。
掃除をする時に使うのに、掃除機っちゅうもんがおますな。
あの、ホースがついてて ぐぅいーーーーんちゅうて、ものすごい音立てて吸い込むやつでございます。
わたくしなんぞ、頭の方が、アレで ございますんで、中身とか しくみとか、そないな むつかしいもんは、こっからさきも、わからんのでございますが、これは、その掃除機のお話でございまして…



ご隠居(以下・い):あぁ、これ、こっち、お入り。
掃除機(以下・そ):えらいすんまへんなぁ。ご隠居さんに お話だけでも、聞いてもらいとうて参りましたんですけど…(てぬぐいで目頭をおさえる)
い:これこれ、泣いておったのじゃ、わしも わからん。どないしたんや。言うてみなされ。
そ:はい。実は、わたくし、ずっと、魚(うお)やんのところで 使(つこ)うてもろてます掃除機なんですけど、この頃の、魚やんの掃除機使いの荒さには ほとほと、困り果てておるのでございます。
い:そうか、魚やんか… あれも、悪い者(もん)では無いんやが、気ぃの荒い、口の悪ぅいところがあるうえに、突然、わけのわからん癇癪を起こす癖が あるさかいになぁ… あんたの苦労も しのばれるっちゅうもんや。
そ:いつもいつも、乱暴に引きずりまわされるは、角へ、ごつーーんごつーーんと ぶつけられるは、最近では、「すぐに、吸い込む力が弱ぁなるような掃除機は ほかしてしまえ」とか、コードの巻き取りが何べんやっても上手くいかへんような時には、「窓から捨ててしまおか」とか…(また、泣き出す)
い:ははぁ、魚やん、イライラしとるわけやな。あんたも、吸い込む力を長(なご)うもたせるようにするとか、コードの巻き取りを いっぺんで、出来るようにするとか出来んもんかいな。
そ:そない言われても、これは、性能でっさかい…(いっそう、激しく泣き出す)
い:あぁ、これこれ、そないに泣きないな。困ったなぁ…(頭をかく)
亀吉(以下・か):ご隠居は、いなさるかー。(見つけて驚く)はっ。これは、おとりこみ中、失礼しました。(と帰りかける)
い:亀やん、ちょっと、待ち。おまはん何か、勘違いしてるみたいやけどな、これは、かくかくしかじか…
か:はぁ、そういう訳でしたか。あの魚政の奴が、そない むごい仕打ちを… ここは、ひとつ、わたいが、ガツーーンと言うてきかせますわ。
い:そうか、おまはん、言うてくれるか。おまはんと魚やんは、仲がええさかい、そしたら、ここはひとつ おまはんに、まかせます。
か:ご隠居も、掃除機はんも、大ぶねに乗ったつもりでいておくんなはれ。ほな、さいなら。


(激しく戸を叩く)


魚政(以下・う):何や、えらい騒々しい叩くやっちゃと思たら、亀吉っつあんやないかいな。どないしたんや。
か:どないもこないもあるかいな。おまはん、ひどい目に合わせてるそうやないか。むごいやないか。あんまりやないか。
う:まぁまぁ、いきなり来て、何の話や。
か:とぼけやがって。しらきろうちゅうたかて、そうはイカの塩辛やで。ホンマ。ひどいやっちゃで。むごいやっちゃで。わし、今まで、おまはんと友達やと思てたけど、おまはんが、そない ひどい奴とは知らなんだで。
う:えらい剣幕やないかい。わし、何、ひどいことしたんや。
か:あくまでも、とぼけるつもりか。掃除機のことやないかい。あの紫の小柄な しゅっと華奢なホースの掃除機のことやないかい。
う:掃除機が、どないかしたんか。
か:くーーーっ。お前という奴は、なんちゅう奴や。今日、わし、ご隠居さんの家で聞いたんじゃ。お前の極悪非道な掃除機はんへの仕打ちを。
う:今朝から、掃除機見あたらへんと思てたら、ご隠居のとこ行きくさっとったか。
か:もう、ごいーーーんといったるからな。ごいーーん。(ぐーで殴る)
う:あ、痛っ。いきなり、殴りやがったな。何を、さらすんじゃ。(殴り返す)
か:この冷血漢。緑の血のモンスターめ。
う:わしは、バルカン人か。(バルカンサイン)
か:言うてる場合か。(また、殴る)
う:お前、あの掃除機に惚れとるんやろ。(殴り返す)
か:な、な、な、何を言うねん。うわぁーーーっ。(つっこんでいく)
う:うわ。やったな。こいつ。うわぁーーーつ。(めちゃくちゃに殴る)


わーわーと言うております。
毎度おなじみ、掃除機長屋でございます。 m(__)m(鳴り物)