くもり

西東三鬼の『神戸・続神戸・俳愚伝 (講談社文芸文庫)』を読みたくなって、ここのところ、読んでいる。
毎年、夏になると なぜだか読みたくなる。
特に、夏の話を書いているということもないのに。
この句の印象が あまりにも強いからだろうか。

「おそるべき君等の乳房夏来る」



そして、「神戸」、「続神戸」を読んで、「俳愚伝」あたりから読むスピードが遅くなってしまうのだった。
「俳愚伝」がおもしろくないわけではなく、その前の「神戸」がおもしろ過ぎる。だらしがなく、情けなくみえて、とてつもなくかっこいい。

風が遠くの方から吹いてくる。人の嗚咽のように細い。去年の夏、この腰かけている石は火になった。信じ難い程の大量殺人があった。生き残った人々は列をなして、ぞろりぞろり、ぞろりぞろり、腕から皮膚をぶらさげて歩いた。
そのひきずった足音が、今も向こうから近づく。ぞろりぞろり、ぞろりぞろりと。
私はくらやみに立ち上がる。一歩あるいて、立ったままの松の骸につき当る。どこかで、水の音がするのは、水道の鉛管がやぶれているのだろう。のどがカラカラに渇いていることに気がつく。月もなく、星もなく、何もない。あるのは暗い夜だけだ。人間は人間を殺すためにあんなものを創り出した。そして私もその人間という名の動物なのだ。




乳がん検診に行き、つらい検査に耐えたごほうびというわけでもないけれど、ジュンク堂書店本店で、本を買う。
久しぶりに、じっくりと、ゆっくりと棚を見てまわって、足がくたびれた。

池田澄子『シリーズ自句自解?ベスト100 池田澄子』、柳家小三治『まくら』、今川英子編『林芙美子 巴里の恋 巴里の小遣ひ帳 一九三二年の日記 夫への手紙』、片桐はいりグアテマラの弟』購入。


 
文芸コーナーにあったフリーペーパーを頂戴してきた。
小さい字だけれど、手書きの読みやすい字で しっかりと新刊のおすすめ本が紹介されており、フェルディナンド・フォン・シーラッハの『犯罪』読みたくなってしまった…